映画祭紀行 その4 「あの人」 

2月9日

 昨日より確かな040122手応えを感じたQ&Aだったが、さすがにこれ以上難しい質問を受けてもいささか対応に困る。何か良い手はないかと思いをめぐらせた。

 いちいち比較するのも憚れるが、これまで日本で体験したQ&Aとはやはり感触が異なる。質問が純粋に質問であり、聞く側と答える側との【対話】になり得た気がした。

 日本では、質問ではなく意見を聞かされ、それにどう思うかと問われることがよくある。しっかり自己主張されてどう思うかなんて聞かれても、何を言えばいいのか戸惑う。かといって、まるっきり考えや意見もないまま質問されるのも困る。時には質問の意図まで考えて、その場のやり取りをまとめなければならないことすらある。「私は何を聞きたいんでしょうか」と聞かれても、「さぁ、何でしょうか…」と、私も悩んでしまう。最近では観客とのQ&Aに限らず、マスコミのインタビューにおいても同じようなことを感じることがある。「何をかいわんや」だったりして、ちゃんと質問に応えられたかどうか。しかし、そんなやりとりが、果たして【対話】になりえていたのだろうか、今更ながら、全く不安である。禅問答では、問いかける弟子に答えを出さない。門前払いしようと閉め出し、戸で脚を挟んででも答えず、相手に考えさせるという。まぁ脚なんて挟まなくてもいいし、第一そんな痛い思いをしてまでして聞きたい質問もないだろうが、ふと渥美清氏のアドリブ台詞を思い出す。

 

「自分の頭で考えな。お前ら、頭一つずつ配給されてんだろ」

 今考えると目から鱗が落ちるような台詞だ。あの人は、全くもって凄かった…。

 19時半より、国立オペラ座にて、『 La Boheme 』を鑑賞。
ベルリンの街には雪が降り、美しい絵画のような情景。

 表に出ると、底冷えする寒さに震え上り、雪景色もクソもなく真っ直ぐホテルに戻る。近藤さんはかなりのオペラ好きである。一方私は、まぁこんなもんかと思うくらいで、特に感慨深いものは感じられなかった。私だって鑑賞後の道すがら「さすがは本場だ」とくらい言ってみたいが、なかなかそうはいかない。幕間に林檎酒なんか飲んでる人々を見ると、まぁ歌舞伎みたいなもんか、なんて言葉がつい口に出てしまう。歌舞伎の飲み食いはこんな上品なもんじゃないが…。オペラのような舞台表現を観ていると、【映画】って表現は生まれるべくして生まれたのだとつくづく感じ入る。いずれにせよ見る目がなきゃ、あんな歌っちゃてる姿に感情移入出来るもんじゃない。相米監督なら、あのオペラを堪能し、どんなことを言うのだろう。
 歌で思い出して、志摩プロデューサーの部屋に全員集合と号令をかける。いやいや、ベルリン市民に圧されてつい忘れていたが、明日舞台で『おこさ節』を歌わなくちゃいけないので、みんなで練習しましょうと。

志摩「監督歌えるんですか」
森崎「いや、未だ未完成です」
近藤「口移しだと難しいですよ」
森崎「ええ。ですからテープを持参いたしました」
一同「おおぉー」

 盛り上がった一同だったが、『おこさ節』を聴いてみて、節回しのあまりの難しさに言葉を失う。

倍賞「…むずかしいな、私、合の手練習しまーす」
森崎「練習って、合いの手は簡単なんだよ。ムズカシイのは頭の節回し」

 かなり必死に歌いこみ、そのうちお酒も入ったりして、ベルリンの一 夜、いささかヤケクソじみた『おこさ節』が響くのだった。

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