第4回東京フィルメックス 森崎東ナイト報告

映画評論家・山根貞男 vs 森崎東 対談

2003年 11月28日 23時30分〜 六本木ヒルズにて

今年の東京フィルメックスの特別企画は、清水宏監督作品の回顧上映と、森﨑監督の過去3作のオールナイト上映。
時代こそ違えど、奇しくも両監督共に松竹の撮影所出身。そういえば以前、森﨑監督がこんなことを呟いていたことを思い出した。
「昔は清水監督といえば子供映画なんて勝手に思ってて、子供の映画なんてものにはまったく興味がないから、『けっ』なんて思ってたけど、改めてきちんと観たら、いやぁ、いいんだなこれが。それで俺も『ニワトリ』撮って、ある意味子供映画作ってんだから、誠にもう、なんてったらいいか…」
森﨑ナイトと銘打たれたイベントの上映作品は『喜劇・女は度胸』『黒木太郎の愛と冒険』『生きてるうちが花なのよ、死んだらそれまでよ党宣言』の3作。上映に先立ち、映画評論家・山根貞男氏と森﨑監督の対談がひときわイベントを盛り上げた。

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山根 「今夜の上映作品は、森﨑監督が松竹で作った『喜劇・女は度胸』、そしてATGで作った『黒木太郎の愛と冒険』と『生きてるうちが花なのよ、死んだらそれまでよ党宣言』(以下略称『党宣言』)の3作なんですが、実にいい選択の3本ですね」

森﨑 「ええ、ありがたいですねぇ」

山根 「森﨑監督というと、新宿芸能社の《女シリーズ》も重要なんですが、そこを敢えてデビュー作である『女は度胸』を持ってきたとこがいいですね。森﨑監督にとって『女は度胸』というのはどうなんですか」

森﨑 「わが意を得たり、といった作品ですね」
山根 「じゃぁ、今日の上映順にお話をうかがいたいと思います。まず、『黒木太郎の愛と冒険』について……」

◆『黒木太郎の愛と冒険』

山根 「この映画は本当にいろいろなものが詰まってて、たくさんの登場人物が出てくる、まさにごった煮の映画なんですね。それで、映画の世界では《いい映画とは、一言でどんな映画か説明できなければいけない》とよく言われるんですが、監督ご自身、『この映画はどんな話か、一言ではいえませんね』とおっしゃったことを憶えてます。どうですか監督……(やっぱり)今も言えませんよね」

森﨑 「ええ、言えませんね」

山根 「でも、いったいどんな映画って言うべきなんですかねぇ。なんの映画なんですか、これは。芸術映画ですか」

森﨑 「……まず、その説明をする義務感をまったく感じないですねぇ」

山根 「(笑)」

森﨑 「観ていただいた人には、否応なく《ああこれは、こういう映画か》とわかってもらえるわけですから、そっちへお任せします」

山根 「あのたとえば、松竹で作ったら制約というか、こういうふうに作ってくださいというものがあるじゃないですか。それはなかったんでしょ」

森﨑 「全然ないですね」

山根 「そういう意味では、気ままに作ることができた」

森﨑 「気まま以外には作りようがなかったですね」

山根 「多くの登場人物の1人で、三國連太郎さんが、現代の話なんですけど少し時代が戻ったような人物を演じてるじゃないですか。僕が前に聞いたのは(その人物には)森﨑監督のお兄さんのイメージが入っていると」

森﨑 「兄貴のイメージだけであの人物を作ったというわけではないですけどね。原作にはない人物で、もと砲兵隊の中隊長って設定なんですけど、頭が狂ってんですよ、大砲を撃ちすぎて。で、僕の兄貴は、僕にとっては狂ってたとは思えないんですが、ある意味では狂ってた。終戦のときに腹を切って死んだんですから。なんで兄貴は狂ったのか、僕にとっては疑問なんです、ずっと疑問なんですよ、永遠の謎。それをまぁ、この映画を作ることの中で、少しでも解ろうというのが実は、僕の隠されたテーマなんです。僕の一生のテーマですね。といっても、この映画自体のテーマではないですけどね」

山根 「キャストもたくさんの人たちが出てきます。(田中邦衛をはじめ、倍賞美津子、財津一郎、伴淳三郎、清川虹子ほか)その登場人物の1人で、また注目すべきなのは、映画監督の岡本喜八さんです。なんとも不思議な役で出てます。聾唖の夫婦の旦那さんの役で、台詞もないんですけど、なんで岡本監督というキャスティングなんですか」

森﨑 「それは、単純に岡本喜八さんが好きだったので、お願いすれば出てくれるに違いないという、勝手な想いがあって、お願いしたわけです」

山根 「すべてにおいて、そういう映画の作り方をされていた」

森﨑 「そういうことです」

山根 「そしてそうそうたるキャストの中で、若者たちが出てきます。素人というか俳優ではないですよね、彼らは」

森﨑 「あの当時、僕が講師として呼ばれていた当時横浜にあった今村さんの映画学校の生徒さんだったんです」

山根 「今の日本映画学校」mosisakinight2

森﨑 「そうです。あの若者たちに惚れて出てもらったのです」

山根 「その中で、ガンちゃんと呼ばれる銃一という若者を演じた伊藤祐一さん。今日、会場にいらっしゃってるそうですが…」
伊藤 「(客席から)監督、ご無沙汰してます」
山根 「何か一言だけください」
伊藤 「監督が、ご丈夫で何よりです」
森﨑 「どうも、どうも」
山根 「たしか日本映画学校の第1期卒業生ですよね」
伊藤 「卒業してないです」
森﨑 「(笑)」
山根 「この映画は、日本映画学校の大勢の生徒さんたちが、プロのスタッフたちを手伝ったりもしてるんですね。最近ではよくあることですが、当時としては珍しかった」
森﨑 「低予算でしたからね」
山根 「もしかしたら(学生がプロの現場に本格的に参入してきた撮影現場の)ハシリだったかもしれません」

◆『喜劇・女は度胸』
山根 「次に、『喜劇・女は度胸』です。これは監督のデビュー作なんですが、主演の倍賞美津子さんの主演第1作でもありますよね」

森﨑 「そうです」

山根 「これもやっぱり兄貴と弟の話ですね。偶然ですか」

森﨑 「最初、山田洋次さんと一緒にホンを書いたんですけども、だんだん違う話になったんです。どこか頭の隅に、兄貴のことがひっついてたんだろうと思いますね」

山根 「この作品では、兄貴が、目茶目茶な男で調子よくて、いわゆる偉い兄貴ではなくて、弟のほうが真面目で引っ掻き回されるという形になってますね」

森﨑 「渥美さんを想定した途端にそういうことになったわけです。弟の僕が真面目だと言ってるわけではないですから」

山根 「(笑)この映画の時は、『男はつらいよ』が始まってすぐ後くらいですから、渥美さんといえば寅さんというイメージと違って、ちょっといいんですね。それで、この映画はとにかく喧嘩ばっかりしている映画ですね」

森﨑 「ええ、喧嘩ばかりで……まぁ、観ていただきましょう」

山根 「(笑)わかりました。じゃぁ、これはぜひお聞きしたいんですけど。森﨑映画を観ると、すべてに共通するテーマとして下ネタってのがあるんですが、第1作目からすでに始まっている。これは……なんでしょう」

森﨑 「(笑)なんでしょうといわれても。評論家はぜひ、そこまで考えてもらいたい」

山根 「(笑)いやいや、この機会に聞いておこうと」

森﨑 「結果的に下ネタが出てくるのはたしかであって、新作にも出てきますので、もう、逃げも隠れもしませんが、なんでかって改めて訊かれると、なんでかなぁ…」

山根 「なぜか出したくなるんでしょ」

森﨑 「……うぅーん」
山根 「なぜですか」

森﨑 「……隠されてるからってことがあるかもしれませんね。下ネタってのはあまり上品ではないですから、出すなという。特に松竹なんかでは。隠されてるモノを白日の下にべらっと出したいという、そういう癖があるかもですね」

山根 「かもですか」

森﨑 「かもですよそれは。……テーマじゃないですからね、下ネタが」

山根 「(笑)でも、日本映画で、必ずと言っていいほど下ネタを出すというのは、森﨑監督と川島雄三ということになるわけです」

森﨑 「ああ、そうですか」

山根 「もちろん1、2作出してくる監督はいますけど、しょっちゅう出すのはこの2人だけなんです。お願いしますよ」

森﨑 「あぁ、いいですねぇ。大好きですから」

山根 「やっぱり」

森﨑 「川島さんのことですよ」

山根 「(笑)」

森﨑 「たとえ下ネタでも共通したとすると、あの天才監督と何か因縁のようなものを感じますね」

山根 「(笑)次にうかがいたいのは、この映画の題名『女は度胸』というように、監督の映画では、女性たちがとても強い。で、男たちがみんなだらしない。やっつけられちゃうんですよね、男たちが。監督の中で、女性が強いというのは憧れというか実感というか何かがありますよね」

森﨑 「僕の親父が長男で、その妹さんたち、僕のおばさんたちなんですけど、女ばかりがズラっと6人くらいいたわけですね。島原の気風を受けた、豪傑のような女性たちが。それが否応なく存在感としてあるんですかね。だから、女性を尊敬してってわけでもないです」
山根 「なるほど。幼い頃の記憶にそういう確かな存在があったと」

森﨑 「目線としては、いつも見上げてましたね。その女性たちを」

山根 「いわゆる、フェミニズムではなく」

森﨑 「ええ、そんな上等なものじゃなかったですね」

山根 「(笑)この映画だと、清川虹子さんが演じてるおっかさんがとにかく強いんですが、監督の記憶があのおっかさんに収斂していく」

森﨑 「あのおっかさんをどういうふうに作ったか細かく憶えてないですけど、清川さんに合わせてホンを書いていくと、ああなったんですね。実は先日、まだ若い頃の清川さんが主役だった映画を観たんです。それがすばらしかったんですよ」

山根 「清水宏監督の作品」

森﨑 「そうですそうです。それで、思い出したんですけど、僕が助監督の頃にも一度仕事をご一緒したことがあるんですよ、清川さんと。その作品の中で鉄橋の上で逆立ちをしてみせるという芝居があったんですね。で、清川さんを支えるのが僕の役目だったんですけど、こう、腰というか足というか、抱えないと支えきれないわけです。着物の裾がハラっとなってしまうし、下着も腰巻ですからたいへんですよ、もう。僕の顔がここにあるとすると、この辺に足があって……まぁとにかく、りっぱな体格でいらしたからひと抱えくらいあるわけですよ。それで僕が台に乗って無理な体勢で、必死になって支えるわけです。ひじょーにむずかしかった。僕だったからできたという自負があるくらいです。こう、足で踏ん張って立ってると重力が……まぁ、いいかそんな話は」

山根 「(爆笑)」

森﨑 「清川さんの若かった頃は非常にきれいですので、機会があったらぜひ、清水作品でご覧になっていただきたい」

◆『生きてるうちが花なのよ、死んだらそれまでよ党宣言』morisakinight

山根 「この作品も、独立プロダクションで作った映画ですから、監督はいろんな話をいっぱい入れていて、これがめっぽう面白いんですけど。しかしややこしい。あんなややこしい話をよく作ったもんだと(笑)。5つくらいのストーリーがよじれているんですね。なんでまたこんなに話を詰め込むんだろう、1つか2つにしておけばいいのにと。あの当時、僕は監督にも言いましたね」

森﨑 「山根さんだけでなく、いろんな人からも言われました。特にいろいろ言うのは助監督さんで、たくさん話が入っていると、それだけ仕事の密度も増えるということもあって。まぁ、時々私も反省するんですよ。本当はシンプルな話をシンプルに撮っていくのが、(映画の)王道ではなかろうかと思うんですけども、実際にはこぼれてもかまわないからと、1升瓶に2升くらい入れちゃうような話になってしまう。また、こぼれるからよけいに入れたくなる。もう、私個人ではどうすることもできないですね」

山根 「(笑) この映画の後、森﨑監督はいろいろと映画を撮っているのですが、最新作の『ニワトリはハダシだ』は、主演が倍賞美津子さんや原田芳雄さんであり、メインのスタッフもこの『党宣言』のスタッフが、また集まって撮っているということだけでなく、この『党宣言』という作品にいろいろな意味で繋がってますね」

森﨑 「それは、お金を出して『ニワトリはハダシだ』を撮らせてくれた、舞鶴の志摩さんというプロデューサーが、学生時代にこの『党宣言』という映画を観て、気にいってくれてたんですね。その頃、舞台挨拶か何かで出てきた私が、喋るのは苦手なのでと歌を歌ったらしいのですが、その時のことを憶えていてくれて、ぜひ、あの阿呆な監督と一緒に映画を作ってみたいという夢を持っててくれたらしいんですね。その夢が実現した。それが大きいんじゃないですかね」

山根 「きっかけに、『党宣言』があった」

森﨑 「これはうれしいんですね。映画を撮っていて、僕もそういう夢を見ることがありますよ」

山根 「どんな夢ですか」

森﨑 「映画を作って評判にならないことがあっても、観てくれた人の中で、たった1人でも、私だけはこの映画が熱烈に好きですという人が出てきてくれるであろうという、そういうありえないことを、常に想像を膨らませてしまうようなものです。そういうありえない人がいたんですよ」

山根 「そうですよ、ありえないことないですよ。そういう映画ですよ『党宣言』は」

◆『ニワトリはハダシだ』について

森﨑 「まぁ、そういう夢を見るんですね」 
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山根 「その志摩さんは、今日会場にもいらしてますが、私は、『ニワトリはハダシだ』のロケ現場にも行ったんですね。そうしたら志摩さんが製作総指揮という立場で自ら赤灯をふって、人止めや車止めをしていらした。『黒木太郎』や『党宣言』と同じように、この新作『ニワトリはハダシだ』も作ったと」

森﨑 「そういうことですね」

山根 「時間がなくなっちゃいましたので最後に監督、皆さんに一言」

森﨑 「いや、僕はこの一言を言わせてくれればいいので、最初から早く言わせてくれないかなと思ってたんですけど」

山根 「(笑)どうぞ」

森﨑 「『ニワトリはハダシだ』を皆さんお忘れなく、ぜひご覧ください」

対談後の3作品の上映で驚いたことは、オールナイト上映でありながら、20歳そこそこの娘さんたちが目立ったこと。そして彼女たちがあのややこしい森﨑作品を素直に楽しんでいたこと。
『女は度胸』では渥美さんと花沢さんの掛け合いや清川さんの堂々たる芝居に笑い、『黒木太郎』では倍賞さんの登場シーンにため息をつき、財津さんの奇妙な演じぶりにやっぱり笑い、『党宣言』では上原さん演じるアイちゃんの死や映画のクライマックスに洟をすする。
今どきの若い娘さんたちには、森﨑映画のヤヤコシさはあまり問題ではないようだ。彼女たちは新鮮で面白く、ダサくてカッコよく、ダサくて可愛いものとして単純に受け止めている。だから下ネタに対する笑いも、中年男性並みにテンションの高いものだった。
新作 『ニワトリはハダシだ』が、若い客層から新たな支持を得られることを期待したい。
(文責・中村有孝)

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